トピック7
技術者の誇りを奪う「二項対立」
「最近、技術者の元気が無い。技術者としての誇り、気概みたいなものを取り戻すためには、どうすればいいでしょうか?」
いくつかのメーカーから、このような相談を受けることがあります。当然、即効性のある解決策などありません。ただ、技術者のモチベーションというテーマで複数の企業と情報交換をしているとき、いくつかの言葉が引っかかっています。
◆「マーケットイン」vs.「プロダクトアウト」
プロダクトアウトの発想でモノを作っているから売れないんだ! もっとお客の声に耳を傾けないといけない! 生き残りのキーワードはマーケットインだ!
理由はよくわかりませんが、このような時トップマネジメントの方向性は、極端に反対側に振れることが多いようです。過去を全否定するような顧客至上主義への転向。メーカー各社は「プロダクトアウトからマーケットインへ」を合言葉に、会社にこもりがちだった技術者を、とにかく外に引っ張りだすことに躍起になりました。まるで「技術者市中引き回しの刑」のように。
その後、何が起こったか?
顧客の元に足を運び色々尋ねました。顧客は色々な事を話してくれました。しかしその話は、「ココだけの話」ではありません。取引会社みんなに同じような話をしています。
結果的に、どのメーカーからも同じような提案が出てきました。最後の決め手は「長いおつきあい」、そして「お値段」の差。顧客志向と叫べば叫ぶほど、価格競争を招いてしまったということになります。
プロダクトアウトからマーケットインへの移行という合言葉の中、あちこちの企業で、以上のようなことがありました。
最近、ある企業のマネジメント研修で次のような質問をしたことがあります。
「では、iPhoneは、マーケットインですか? プロダクトアウトですか?」
受講者はちょっと困ったような反応をします。
うーん、スティーブ・ジョブズが勝手に作ったと考えると、プロダクトアウトだといえる。でも、人々の潜在的なニーズを鋭く捉えていたと考えると、マーケットインだとも考えられる。
マーケットインとプロダクトアウトは、低いレベルで捉えると対立概念かもしれません。しかしiPhoneを例にとると、「世の中の人の欲求を知り尽くした人間が、みんなをアッと驚かせてやろうと思って勝手に作った」のが、iPhone。
入り口は「知り尽くす」という意味ではマーケットインですが、出口はプロダクトアウト。両方も高度に極めると、やがて一体化します。つまり、マーケットインとプロダクトアウトを、二項対立としてしまう所に落とし穴があるように思うのです。
「何がご入用ですか」と顧客にヒアリングをしても、顧客が答えを明確に説明できる形で持っているとは限りません。行うべきは「答えを聞く」ではなく「顧客をとことん理解する」ことではないでしょうか。
たとえば一般消費財的なものであれば、消費者がどういう生活をしているか。どんな価値観で生きているのか。生活や仕事の中にどのような喜びや苦しみ、悩みやストレスがあるか。
徹底的に理解した上で「こんなものはどうですか」とこちらから差し出したものが、「そうそう、こういうものが欲しかった!」と受け入れられる。このような次元において、プロダクトアウトとマーケットインの二項対立は存在しません。
◆「営業担当者」vs.「技術者」
日本のあるメーカーの幹部の方と、中国進出について会話をしたことがあります。その方いわく、
・多くの中国企業は、技術は無いが「鼻が効く」。商売にすることはできるので、あとはその商売のための技術を何とか手に入れようとする(日本の技術者を引っ張ってくるなどして)。
・多くの日本企業は、技術を保有している。しかし、商売にすることができないので、眠ったままになっている。
日本の技術者が高待遇で中国などの企業に引き抜かれることで競争の先手を取られ、技術流出などという言葉で問題視されることがあります。ただ、逆の見方をすると、引き抜かれた日本の技術者が実際に活躍しているという事実こそが、日本の企業には「使える(商売の種となる)技術がある」ということを証明しています。
さて、「技術」を「商売」に変えるのは、誰か?
商品を売るのは、営業担当者の仕事。
商品を作るのは、技術者の仕事。
営業担当者と技術者、あるいは営業部門と生産部門の関係も、しばしば対立概念として語られます。企業によっては、「経営陣」と「製造現場」というのもあります。これらは先述の「マーケットイン/プロダクトアウト」よりもずっと前から、企業における二項対立の元祖といってもいいかもしれません。
組織内でひとたび二項対立が成立すると、「線引き」が正当化されます。自分たちは立派な技術を持っているのに、なぜ売れないの? 営業は何をやっているの? それは自分の仕事の範囲外では? もっと上の人の責任は?
待っていても、いいことはありますか?
自分が動かない限りは、きっと何も起こらないでしょう。
元気が無く、卑屈になっている技術者が多い原因は、もしかしたら、その企業に古くから巣食う「二項対立」かもしれません。二項対立が当たり前のように構造化し、習慣として各人の判断や行動として定着してしまっている。
その結果、「面白そうだからやってみようぜ」という商売の芽が摘まれたり、「vs.」でしか考えないから、まともな議論はおろか、情報交換すらなされていなかったり。
具体的な打開策は、企業によって異なるでしょう。
部門の編成を見直す、役職名を変える、マネジメントの役割を再定義する、部門目標のすり合わせを行う、オフィスの座席を近づける、色々な打ち手が考えられます。
ただ、そういった具体的な打ち手をあれこれ考える前に、まずは組織内に隠された「二項対立」を探り、それがどのような影響を与えているかをじっくり考えてみてはいかがでしょうか。
業務等に関するお問い合わせは下記まで
【逗子本社】
〒249-0006 神奈川県逗子市逗子6-10-2
【横浜事務所】
〒231-0021 横浜市中区日本大通18 KRCビルディング508
E-mail: info@globalbasisconsulting.com