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トピック5
研修で作る「組織目標」が現場で機能しない理由

多くの研修会社・コンサルティング会社が提供しているマネジメント研修で行われる代表的な演習の1つが「組織目標の作成」です。自分の担当する部や課、チームをどのような方向に導くかを考え、目標という形で明らかにします。

残念ながら、せっかく苦労して作成した組織目標が研修後の現場でうまく機能せず、フェードアウトしていくことがあります。機能しないと、当然参加者も面白くありません。現場で役に立たないなら、わざわざ時間をかけて研修をやる意味なんて無いではないか。こっちはただでさえ忙しいのに、と。

現場で機能しない目標には、それなりの理由があります。本トピックでは、弊社のマネジメントプログラム内で説明しているいくつかの「落とし穴」のうち、3つほどご紹介します。

◆永遠の4番バッター

組織目標を作成する時には、大別すると2つのアプローチがあります。1つめは、現在起きている問題から目標を作るというもの。もう1つは、将来に向けての「種まき仕事」を目標化するというアプローチです。

3年後に実現したい状態があるとしても、2年後からスタートして間に合うとは限りません。今から仕込んでおくことで、3年後が実りあるものになります。

このような話をすると、受講者であるマネージャーの皆さんは確かにそうだよなと頷きます。では、この考えを踏まえて実際に組織目標を作ってみましょうという作業に進むと、どうなるか。

多くのマネージャーは、今目の前にある課題を重要視します。たとえば組織目標を4つ設定するようにと言うと、1、2、3番目の目標は、「売上○○円」「稼働率の○○%改善」といった、現在の課題を踏まえた目標が書かれます。そして4番目くらいに「おっと、これも入れておかないと」と、将来の布石についての目標が書かれます。このようにして設定された目標は、かなり高い確率で以下のような運命を辿ります。

期末までに目標1〜3までを必死に実行し、力尽きる。
次の期に突入し、再び目標設定が行われる。
新しい目標1〜3が、「その時の現実」に即した形で設定される。そして4番目に、前期と同じ「将来の布石目標」が再登場。

その後も同じ事が繰り返されます。
「目標の4番目くらいで、かれこれ3〜4年同じ事を言っているということ、ありませんか?」

そう尋ねると、受講者の8割くらいがニヤニヤし始めます。これが、将来の布石の「永遠の4番バッター化」です。

どのような業界にも「永遠の4番バッター」は存在します。一例として、証券業界で起こったことを説明します。

最近、「大切な資産の運用はプロにお任せ下さい」というような証券会社のCMがよく見られるようになりました。「資産管理サービス」や「資産形成アドバイザリー」と言われ、お客様の資産をまるごと預かり、運用のコンサルティングやお手伝いをするというものです。

このやり方は、従来型の売買手数料や仲介料で稼ぐのに比べ、顧客の獲得はもちろん、すぐに利益を得るのも難しいそうです。しかし、将来のことを考えると、景気の変動に大きく左右されてしまう手数料ビジネスだけでは厳しく、上述のような資産管理型のサービスを広げていかなくてはいけない。

このような取り組みを証券会社が始めたのは、かれこれ5年前くらいからだということですが、内部では10年も前から言っていた会社もあったようです。しかしほとんどの証券会社では、結局最近まで体質が大きく変わることはありませんでした。

その理由は、この資産管理型サービスが、上述の「永遠の4番バッター」として先送りし続けられたからです。優先順位の高い業績評価目標は「いくら儲かったか」で占められ、毎年目先の数字を追いかけ、それで何とかなっていた。

数年前に、A社が思い切った決断をしました。リテール部門の社員の業績評価に、収益的な指標を用いるのを止めてしまったのです。代わりに最優先の評価指標になったのが、資産管理型サービスの増減を判断する「預かり資産高」です。当面の収益は法人部門でまかなうので、リテール部門の体質を変えることを重要視したわけです。

その後他社も追随し、今では「預かり資産高」はどの証券会社でも優先順位の高い目標として扱われるようになったようです。

現在巷では、「あと3年早くこの決断をしていたら、少なくてもリテール部門については業界トップになれていたかも」と言われています。本当に重要な未来への布石だとしたら、優先順位を1番、2番目に持ってきて取り組まないと、「早く取り組んだ者勝ち」になるということです。

みなさんの会社、部門、チームには、何年も鎮座し続けている「永遠の4番バッター」はいませんか?

◆「結果」と「プロセス」の目標化

作成された組織目標は、その後所属メンバーの個人目標としてブレイクダウンされます。目標管理などの形で人事評価制度の中に落とし込んでいく会社も多いです。当然の事ですが、組織目標がおかしなものになると、そこから抽出される個人目標もおかしなものになります。

いつの頃からか、人事評価制度の文脈の中では「結果だけではなくプロセスも大事」という考え方が広まりました。管理職を対象とした目標管理の研修などでも、「業績などの結果だけではなく、プロセスもきちんと評価しましょう。プロセスについての目標設定を行いましょう」という言われ方がされるようになりました。

そうなった背景には、いわゆる結果至上主義の揺り戻しや経済環境の悪化など、さまざまな理由があると思います。

この事自体は決して悪いことではありません。結果を明快に定義するのが難しく、業務プロセスの中から適切な指標を抜き出して目標化したほうが、個人や部門の責任や貢献度合いをより正しく捉える事ができるケースがあります。

問題が起こるのは、使い分けを誤ったときです。

理由はよくわかりませんが、人事部門が「プロセスも目標設定せよ」と強調し過ぎてしまうことがあります。目標管理シートにわざわざ「プロセス目標」という欄を設けている会社もあり、驚いたことがありました。

その会社では何が起こったか。

「売上10億円」という結果目標と、その手段である「訪問毎月5件」というプロセス目標が併記されるような事態が、あちらこちらで見られるようになりました。そして「売上はダメだったけど、やることはやったよね」という形で、プロセス目標が救済措置として機能し始めました。最終的に出来上がったのは、ぬるい組織風土でした。

加えてこの会社では、前述の「永遠の4番バッター」がどの部門でも居座り続けていました。本来、プロセスを目標化すべきはこちらです。今期中には目に見える成果が出なくとも、何かを仕込んでおくということを目標化しておかないと、誰もやりません。

どのような会社でも、一部の気の利いたマネージャーは、来期に楽をしようと考えて仕込み作業を行っています。しかし、それが目標化されないとどうなるか?

…「そろそろ異動だな」と思った途端、今期中の結果だけに走り出します。種まきをしても、来期には自分の手柄になりませんから。

個人に依存しない体制を作るためには、未来のための仕込み作業をプロセスとして目標化することが不可欠です。

似たような話に「定量目標と定性目標の使い分け」があります。長くなるのでここでは割愛しますが、「結果とプロセス」の話と、「定量と定性」の話を一緒にしてしまい、更に混乱している(人事部門側も実はよくわかっていない)こともあるようです。

◆戦略と計画の分離

最後に紹介するのは「戦略と計画の分離」です。

今までの話と少し毛色が異なりますが、会社の目標を組織にブレイクダウンする時によく起こる出来事です。

私も経験したことがありますが、多くの会社では毎年ある時期になると巨大なスプレッドシートが各マネージャーに送られます。来期〜3年後くらいまでの「年度予算計画」の数字作りが求められます。

で、この種のシート、項目がやたら細かい!

マネージャーは「今年10億で、来期は12億くらいまで持っていきたいよな。そのためにもこの分野の営業は強化したいよな」くらいのことは考えていますが、細かい項目までは考えていません。

そのため何をし始めるかというと、とりあえず適当に数字を入れ始めます。さて、合計しよう…おっと、10億のイメージだったのに15億になったよ。この辺を削ろうか…今度は8億になってしまった。うーん…。

戦略はさておき、とにかく3年分の数字をそろえないと。そんな具合で数字遊びに夢中になってしまいます。

こうして出来上がったスプレッドシートに、ビジョンも本気もありゃしない。それを世界各国から集めて合算して、果たして意味のある数字になるのでしょうか。

このようにして「戦略と計画の分離」という現象が起こります。経営陣が描く方向性と関係なく、いきなり実務的な数字だけの3カ年計画を作らされてしまう。未来を考えるはずが、数字のつじつま合わせで終わってしまう。

研修でこのような話をすると、マネージャーの皆さんは再びニヤニヤし始めます。


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