トピック6
反論するか、従うか。
◆どちらのリスクが高いか?
「自分が確信を持っていることと、上位方針が違う時、皆さんはどうしていますか?」
この質問をマネジメント研修で投げかけると、参加しているマネージャーはいっせいに「ううーん」と唸り始めます。
上長に対して反論するリスクと、素直に従うリスクとでは、どちらが高いでしょうか。実は、リスクは同程度なのです。
あなたが確信を持っていることについて、自分の意見を押し殺してしまうと、会社は潰れてしまうかもしれません。一方で、反論の仕方を誤ると、どこかへ飛ばされてしまうかもしれません。
じゃあ、どうすればいいか?
研修の場ではこう言っています。
「それは、あなたの人生観次第です」
この会社の中で、自分がどう生きていこうかということについて、講師からどうしろと言えるものではありません。自分で選択するしかない。ただ、覚えておいて欲しいのは、どちらも同程度のリスクがあるということです。
ある会社でこのような話をした時、参加者の一人が皮肉めいた言い方でこう言いました。
「ウチの会社は軍隊なのですよ。上官の言うことには絶対服従!という具合でね(苦笑)」
そう言われて思い出したのは、ある方から聞いた、日本の自衛隊の話です。
◆自衛隊の「2つのマネジメントスタイル」
自衛隊に詳しい方から「自衛隊における意思決定」について教えてもらったことがあります。
いわゆる「軍隊」というものは、一般的に上意下達・絶対服従の組織だというイメージをもたれています。ところが、実際の自衛隊は少し違うようです。
物事を「決めるまで」と「決めた後」のマネジメントスタイルがガラリと変化するのだそうです。
「決めるまで」は、職位に関わらず情報を持っている人は全て出さなければならない。思っていることはとにかく言わないといけない。この時点での部下に求められる最も重要な使命は「上官の間違いを正すこと」。それができないと、職務怠慢と見なされる。
情報を集め、議論を重ね、最後に決断するのは最上位の指揮官です。そして、ひとたび指揮官が「決めた後」は、部下はそれに黙って従う。
現在の自衛隊が全てそのようになっているかはわかりませんが、このように「衆知を集めて物事を決め、一旦決めた後は徹底的にやってみる」というのが、あるべき組織の姿だと言われていたそうです。
大半の日本企業では逆になっていませんか?
決まるまではとても静か。意思決定のプロセス自体知らされていない。大切なことは、密室で決まる。
そして決まった後はどうなるか。一斉にブーイングが起こったり、面従腹背になってみたり。誰もそのとおりに動こうとしない。真逆です。
どちらがいいでしょうか。私は、自衛隊が標榜する(実際どうかはさておき)スタイルのほうが、極めて合理的に物事を動かせると思います。
そう思う理由は2つです。
1つ目の理由は、情報量という観点でいうと、限られた上位者だけが持っている情報で的確な意思決定ができるほど、今の世の中はシンプルではないからです。現場で実際に何が起こっているのかを理解した上での決断(現場に迎合するという意味ではなく)をしなければいけません。
2つ目の理由は、ほとんどのビジネスシーンでは、決まった物事の妥当性が著しく高いということはあまりないからです。残念ながら、客観的に明らかに優れた選択肢はめったに存在しないということです。
たとえばA、B、Cという選択肢の中からAを選ぶことを決断した時、Aが明らかにBやCより優れているということが、実行前からわかっているということはあまりありません。どの選択肢にもメリットやデメリット、リスクやチャンスが存在し似たり寄ったり。だけど我々はAでいく、と決めて実行する。
ところがよく聞くのは「Aと決めたのに、それをちゃんとやらない」という話です。やり切らないからうまくいかない。しかし、この選択が間違っていたと証明できるまでの実行も徹底されていない。結果、もやっとした状態、なおかつ誰も責任を取らない状態のまま、選択肢Bに手を付け始める。
業種によっては、圧倒的に優れた戦略というものも確かに存在するのかもしれません。しかし一般的には、やり切った者勝ちということのほうが多い。
ところが、やり切るまで至らない。
こういう悪循環、変えたくないですか?
決めるまでは、ポジションに関わらず「Aがいい」「Bがいい」と遠慮無しに言い合えるほうが良くありませんか? そして、ひとたびAだと決断したら、全員で徹底的にやってみるほうが、その選択の良し悪しに関わらず、多くの知見を未来に受け継ぐことができるのではないですか?
さて、現在のあなたは、あなたの職位なりの「反論する責任」「従う責任」の両方を全うしていますか?
◆意見を引っ込めた経験
「確かにおっしゃる通りですが、やっぱりいざ実行するとなると、難しいですよね…」
「上に対して、一体何を言えばいいものか…」
ある会社の研修では、技術部門の管理職の方がこのような感想を漏らしていました。それに対して私はこう尋ねました。
「そうは言っても、こうしたらいいのにと言うのを押しとどめたり、意見を引っ込めたりした経験はありませんか? 開発方針を決める時に『本当はこっちがいいのに、こうしたらいいのに』と思っていても、結局言わずに終わってしまったとか」
その後もディスカッションは続いたのですが、その時に思い出したのが、数年前に訪問した大手メーカーのX社でした。
私はX社の人材開発部長に呼ばれ、中堅クラスが元気になるような研修を提案してほしいと依頼されました。
そこでいくつかのプログラムを紹介したのですが、その人材開発部長からはこう言われました。
「ウチはねえ、余所でどれだけ効果があったのかということをデータで出してくれないと、買わないよ」
その時思った事が2つあります。
まず、独創的な製品を連発することで有名なX社なのに、余所でやっていることを気にするの?ということ。そして、数字で証明できないと意思決定できないの?ということ。
これが、かつては独立独歩の気風に溢れ、多くのファンを魅了してきたX社の今の姿なのか。私が再びX社を訪ねることはありませんでした。その後、X社の業績は下降の一途を辿り、現在も苦しんでいます。
これは想像ですが、おそらく独創的な製品のアイデアは早いうちから出ていたのだと思います。しかし、数字でマーケットの存在やシェアの拡大を証明できなかったが故に、商品化できなかったのではなかろうか。
感覚的なことをまず口に出して言ってみるということは結構大事なことなのだと思います。必要であれば、後からデータを追いかければいい。
マネージャーの「意見を引っ込める」という行動を、部下たちはちゃんと見ています。
そしてそれを真似します。
一方、なかなか真似することができない不器用な部下は、外へ出て行きます。
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