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トピック2
ボールの「投げ方」とボールの「中身」

◆ 3つの選択

コミュニケーションをキャッチボールにたとえると、「コーチング技法」というのはボールの投げ方(伝える手段、伝え方のアプローチ)の1つです。

人が自分で行動を決める時、選択の仕方(どれを選ぶかではなく、選び方そのもの)は1つではありません。大別すると、以下の3つが挙げられます。

1. 積極的選
2. 消極的選択
3. 自動的選

積極的選択とは、自らそれを望んで選ぶということです。主体的、前向き、楽しんで、というような形容詞があてはまるでしょう。

一方消極的選択とは、イヤイヤそれを選ぶ、選ばざるを得ないということです。受動的、渋々、仕方無く、というような選択です。

最後の自動的選択とは、条件反射のような選び方です。社会的規範、しつけや宗教、文化によって当たり前と思っていることを、信じて疑わず当たり前のように選択するということです。

企業や組織における「自動的選択」とはどのようなものがあるでしょうか。たとえば、朝出社したら元気に「おはようございます」と挨拶をすることが当たり前の会社では、誰もが何の疑いも無く挨拶を行っているでしょう(挨拶をしないという選択肢があるにもかかわらず)。

また「営業目標は達成して当たり前」という部署では、年度末になると全員が必死に駆け回ります(上司が大声を出したり、会議の数を増やしたりしなくても)。

さて、前のトピックで話した、多くの企業でコーチング研修のテコ入れに苦労している理由の1つは、とにかく部下の「積極的選択」を促すことだけに注力していることにあると思います。
研修内では、消極的選択については「部下に強制してはいけません!」と悪玉のように扱われ、自動的選択については全く触れていないことが多いようです。

現実は違います。
実際の仕事の中では、部下に対して四の五の言わずにやることをやれと言わないといけない場面もあります。

一方で、部下の意思を尊重することでやる気を引き出し、仕事がうまく進むという場面もあります。

さらに、上司と部下の両方が答えを持っていない場合。本当のところ何が大事なのだろう?と二人で話し合いながら進めていくというアプローチが求められることもあるでしょう。

それなのに、どんな場面でも強制はいけない、答えは相手が持っているというのでは、上司も部下も苦しくなってしまいます。

弊社のマネジメントプログラムでは、上司から部下へ働きかける時の「3つの選択」の考え方や使い分けについてさらに掘り下げていくのですが、長くなるのでここでは省略します。

いずれにせよ、社員教育でコーチングを扱う時は、過去のやり方を否定するような位置づけではなく、さまざまなやり方を認めた上で、「手持ちの武器を増やす」といった位置づけで扱ったほうがいいと考えます。

◆ 一皮むけた経験

とある総合電気メーカーで、国内外の幹部職を集めた研修を実施しました。その中で過去のさまざまな経験の中で「一皮むけた」時のことを思い出してもらいました。

今思えば、あの時自分はグッと成長した、一段違うステージに昇る契機となったと思えるような経験。それは何だったか?

当たり前ですが、「あの時受講した研修が・・・」と言う受講者は1人もいません。人は研修ではなく、仕事で成長します。ほとんどの受講者が、特定の仕事や案件を「一皮むけた経験」として挙げていました。

さまざまな苦労や不安、挑戦があったのでしょう。受講者同士の議論はたいへん盛り上がりました。
ここでさらに質問をしました。

「もしその当時、その仕事を『やってもやらなくてもいいよ』と言われていたら、その仕事、やりましたか?」

うーん。
室内のあちこちから唸り声が聞こえてきます。
ある受講者が手を挙げました。

「いやあ、やっていなかったと思います。無理矢理やらされた仕事でしたから。今思えばいい経験だったのですけどね。当時は、それはもう、嫌でしたよ」

頷いて同意を示す周りの受講者たち。
当時を思い出した苦々しさと、その経験を乗り越えたから今の自分があるという感謝の気持ちとが、複雑に入り交じっている表情をしていました。

あなたがそうだったのなら、部下に対しても強制的に仕事をやらせることで、部下も成長し、一皮むけるかもしれない。もし部下に選択を委ねたら、そういうことは起こらないかもしれない。

部下は、突きつけられた「困難でやりたくない仕事」をやり遂げた後の自分の姿を、いつも明確にイメージできるとは限りません。そのような時、積極的選択が行われる可能性はとても低いでしょう。

「消極的選択」は必ずしも悪いことではないのです。
(ただし、そればっかりではしんどいでしょう)

以上のことを確認した上で、その幹部職研修では次のテーマである「積極的選択を引き出すためのアプローチ」に進んでいきました。

◆ 田舎の高速道路

さて、ここまでの話というのは、あくまでも「ボールの投げ方」(伝える手段、伝え方のアプローチ)にしか触れていません。

上司と部下のコミュニケーションについて色々な現場の様子を伺っていると、投げ方の前に「投げるボール」、つまり伝える中身そのものについてきちんと考えないといけないという結論になることも少なくありません。

相手に何を伝えたいかということを明確に持っていない上司は、コーチングを身につけたとしても口だけうまくなるという話になってくる。そのことをある受講者が「田舎の高速道路」にたとえて話してくれました。

「『何を話すか』を無視して『どのように話すか』ばかり考えるというのは、私の田舎の高速道路みたいなものですね。街を発展させようと、片側3車線の立派な高速道路を作りました、でもそこには車がほとんど走っていません、というような具合で。もちろん、これでは街の活性化なんて望めません」

もっと言ってしまうと、「間違っていること」を「うまく伝える」という状況になっている組織もちらほら。立派な高速道路を作った結果、それによって人やカネがどんどん街から離れていくように。

ここでいう「話の中身」とは何か?
指示の伝え方ではなく、指示の内容のことです。
仕事の与え方ではなく、部下に与える仕事そのものの定義の仕方のことです。中長期の仕事の場合は、部下の業績目標や育成目標なども含まれるでしょう。

ある仕事を部下が積極的に選択しようが、上司の強制によって消極的に選択しようが、その中身が間違っているとしたら? 最終的には本人にとっても、上司にとっても、組織全体にとっても、残念な結果になってしまいます。

弊社でマネジメントプログラムを設計する際は、それぞれのお客様の状況に合わせて「ボールの投げ方」と「ボールの中身の作り方」のバランスを調整します。
その結果、後者の割合が大きくなるケースは少なくありません。

特に、忙しいプレイングマネージャーが部下の業績管理と育成をうまく両立させることに迫られているような組織では、「ボールの中身の作り方」に関する技術は欠かせません。


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