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トピック3
現場における「部下育成」の落とし穴

◆ 業績指導と育成指導の分断

管理職研修の講師をしていて感じることは、部下の育成そのものに反対する受講者はそうそういないということ。確かに必要だよな、やらないといけないよなと思っている管理者がほとんどです。

しかし、現場ではなかなかうまくいきません。
どうしてでしょうか。
「業務指導」と「育成指導」が分断しているケースがよく見られますので、具体的に説明します。

会社から今期の重点方針として「部下育成の徹底」という指示が降りてきた、とあるマネージャー。
どうしたものかと思いつつ、部下の様子を眺めてみる。うーん、こいつは分析力が足りないよねえ。

「ちょっと」と部下を呼びつける。話の枕として「上から部下育成の徹底という指示があってね」という会話をしつつ、本題へ。

「で、お前ちょっと分析力が弱いよな?」
こういうことは、本人も少なからず自覚しているものです。「そうですね、どうしたらいいですかねえ」と考える。

「うーん、研修行ってこい」

極めて抽象度の高い会話をするだけで、育成指導を行った(ということにする)典型例です。

さて、この部下に「企画書を作る」というような仕事が与えられていたとしましょう。分析力の無さは書面に表れます。上司として進捗管理をしていると、次々と粗が見えてきます。

「この部分、なんでこう言い切っちゃうの?」
「ここの説明、論理破綻していないか?」
「情報不足じゃない?」
「○○さんの意見、聞いた?」
「はい、やり直しー」

このような介入は、企画書の品質を高める「業務指導」であると同時に、分析力を高めるための具体的な「育成指導」でもあります。

最初の例のように、仕事から切り離された育成というのは抽象度が上がり、別途勉強をするという指示になりがちです。結果的に目の前の仕事のレベルは上がらず、別途勉強をするための時間もとられます。

それに対して後の例のように、仕事のレベルを上げるための具体的に介入すると、結果的に育成指導をしているという形になります。

極端な話、このような業務への介入、管理をきちんとやっていれば、部下は黙っていても育ちます。
もちろん、長期的なキャリアの視点に立った育成指導はまた別で考えないといけません。ですが、日々の育成指導ができない上司に、長期的な育成指導はあまり期待できないでしょう。

こうして考えてみると「業務指導=育成指導」というのは、普通にマネジメントをしていればそれほど難しくはない、当たり前のことのように思えます。

◆ 別途育成

ところが多くの職場ではそうではない、業績指導と育成指導が分断してしまっているという現実をどのように理解すればいいでしょうか。

理由の1つは「忙しいから」です。
多くの管理者がプレイングマネージャーとして自分の仕事を抱えながら部下の指導をしています。

スケジュール帳は、目先の仕事で全部埋まってしまう。自分の仕事と、火を噴いた案件の火消しに追われてしまう。部下の仕事1つ1つの進捗管理は、一応やってはいるが、ハッパかけにしかなっていない。なぜ出来ていないのか?というところまでは言及しない。

部下と同行したとしても、ほとんど自分でしゃべってしまいます。なぜなら業績に対するプレッシャーがきついし、自分が動いたほうが早いからです。任せるか任せないかを悩みつつも、仕方なく自分が動き、部下に経験を積ませる場面、責任感を持たせる機会を奪ってしまう。その状態で「別途育成」しようとする。

マネージャーが実務に入り込むほど、部下の業務プロセスに対する介入は少なくなります。次第に業務は放置プレーで育成は別途ね、という形になってきます。

このようにして、よく耳にする「現場のOJT不全」という状態が出来上がります。OJTの会話は全く行われず、やっと部下と話す時間が取れたと思ったら、どういう勉強をしろ、あの研修受けてこいというような、OFF-JTの会話ばかりになっている。

あとは、部下がどこにつまずいているかはお構いなしに「お前、営業ってものはだねえ」と昔の武勇伝を語るだけということも。最近は減ってきたようですが。

業務指導と育成指導が分断してしまう他の理由として、「研修から発想しすぎ」ということも挙げられます。

育成強化の指示をトップが出したとたん、研修を増やそう、育成計画作らせよう、コーチングやりましょう、OJT研修やりましょう、というように。

決して間違っているわけではありません。業務から離れた育成機会も必要でしょう。しかし、普段の仕事で適切な業務指導=育成指導ができていれば、入社1?2年目くらいの社員に必要な能力くらいは身に付いてしまいます。育つだけでなく、業績も上がります。

この事実を無視したまま「別途育成」だけを充実させるのは、ちょっともったいないのではないですか?

研修で以上のような話をすると、育成をしなければならないという負担を感じている管理者は多く、みんなほっとしたような表情をされます。

◆ あの件どうなった?

では、適切な業績指導=育成指導とはどのような行為でしょうか。最も基本的な行為は、部下の業務プロセスへの介入、具体的には進捗管理です。

進捗管理というと、ずっとくっついていなければいけないと勘違いする方がいます。そうではなく、押さえるべきところだけ押さえるということです。
押さえどころがわからないから、適切な介入ができないのです。

進捗管理の大前提は、その仕事のゴールイメージ(手段ではなく目指すべき状態)や達成基準が明確であり、上司と部下で合意・共有されていることです。それから、最終ゴールに至るまでのマイルストーン(節目)を定めます。マイルストーンが、部下が順調に仕事を進めているかどうかを判断するための「押さえどころ」として機能します。

マイルストーンを目安に部下をモニタリングし、仕事の遅れを発見したら介入します。なぜ遅れているのか。意欲の問題か、能力の問題か。

この段階になってやっと、遅れている進捗を元に戻す方法として、動機付け・ティーチング・コーチングといった手段が登場します。

弊社マネジメントプログラムでは、業務指導・育成指導の前提となる「与える仕事のゴールや指標、マイルストーン」を検討する時間を多めに設けています。

「いざ書き出してみると、ゴールが不明確のまま仕事をやらせているケースが多すぎて愕然としました」とおっしゃる受講者は、業種に関わらず、どの会社にもいらっしゃいます。

さて、進捗管理で肝心なことは、先手を打つことです。
最も簡単なのは、一言「あの件どうなった?」と尋ねることです。

ちゃんとゴールやマイルストーンが合意されてさえいれば、その一言だけで部下はハッと思い出し、自ら正しい方向に動き出します。実は、進捗遅れの原因を分析すると、一番シンプルな原因は「本人が忘れている」なのです。

このことを研修で話すと、否定する受講者はまずいません。皆さん苦笑いされます。

苦笑いの理由は、受講者自身がそのことを証明しているからです。管理職研修の事前課題は、事務局からずいぶん前に期限を伝えているにも関わらず、順調に回収できることはまずありません。

たいていの場合、研修3日前くらいのリマインドメールで「おっと」と思い出し、慌てて取り組み、何とか間に合うか、1日遅れですみません、という結果に落ちつきます。


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