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トピック1
コーチング研修のテコ入れ

◆「夢は実現できるんです」→「チェンジ」

1990年代まで、社員教育における「コーチング」の扱いは、ごく限られた分野(たとえば営業研修の部下指導の中で扱われる手法の一つ)に留まっていました。

様相が変わってきたのが2000年代の初めです。海外のコーチングメソッドが日本でも紹介され始め、まずは個人向けの認定資格等で広がり、その後社員教育に採用する企業も増えていきます。

その頃私はリクルートの研修事業部門(現リクルートマネジメントソリューションズ)で事業企画や商品開発のマネジメントを担当していました。部下の中には当時最先端のコーチングを熱心に学ぶ者もおり、新たなサービスとして自分たちも取り組むべきかどうか思案していました。

頭で考えるだけでは何もわからないので、実際にコーチを雇ってみることにしました。部内で関心のある人を7,8人集め、名の通っているコーチを探し、数ヶ月間コーチングを受けました。

先に言ってしまうと、社員教育としてのコーチングビジネスは難しいな、というのが結論でした。

私に最初についたコーチは業界では名の通った人でした。会ってすぐに言われた言葉を今でも覚えています。

「夢は実現できるんです!」

自分の仕事のクオリティを高めたい、という私の要望とはちょっと合わない。申し訳ないけれど、早々に「チェンジ」していただきました。

次に私についてくれたコーチは、元々外資系メーカーの役員秘書だった方でした。このコーチは、マネージャーがどういうところで悩むかという勘所を見事に抑えていて、無駄に「なぜやらないの?」というような抽象的な投げかけをなさらない方でした。たいへん良い会話ができました。ある程度のビジネス感覚がないと、ビジネスやマネジメント分野でのコーチングは難しいのだなと実感した経験でした。

コーチングは、もともとそういうことに関心があり、かつ素養もある人が、何日間ものプログラムを受けて特訓することではじめて使える方法論です。

そして、コーチング=ソフトなアプローチではありません。コーチング的な関わり方であっても相手に厳しく迫り、行動を変えるパワーが要求されることもあります。それができる人は、相応の素養に加えて日々研鑽に努めています。実際に会ってみて、そのことがよくわかりました。

では、たとえば課長研修でコーチングを学ばせたらどうなるか? そもそも関心が無い、素質があるとは限らないメンバーで、集められるのはせいぜい2日間程度。

「2日間では、ちょっと無理だと思いますよ」と、あるプロのコーチは言っていました。それでも、企業からその種のコーチング研修を頼まれれば、受けているとのこと。なぜかと尋ねると「知らないよりは知っていたほうがいい。どうしようもない状態よりは少しでも道具があれば抜け出せる可能性がある。そこに価値を見出すしかありません」と答えてくれました。

◆「部下が『やりたくない』と言う仕事は、どうすればいいのでしょうか?」

数年前、私はある外資系金融機関の研修部門から「コーチング研修をリニューアルしたい」という依頼を受けました。

もともとこの会社では、部下に対して「四の五の言わずにやれ」と強制的に仕事をやらせるマネジメントが一般的だったとのこと(多くの企業がそうだと思いますが)。

しかし、このままではこの先若い社員がついてこなくなってしまう。最近はパワハラという言葉も一般化して、厳しく接するなんてもってのほかという風潮。管理職になったばかりの社員に話を聞くと、みんな「部下とどう接していいかわからない」と口を揃える。

そこで研修部門では、先述のプロコーチの話と同様に、「どうしようもない状態よりは良くなるだろう」と考え、管理職向けにコーチング研修を導入しました。

その結果、現場には、「単に優しくて物わかりのいい上司」が増えました。

「君はどう思う?」という、うろ覚えのオープンクエスチョンを発する上司と、「わからないから相談したのに」と困惑の表情を浮かべる部下。あるいは「無理だと思います」という答える部下に対して、会話を続けることができない上司。

部下の主体性を引き出すのが大事、ということを研修で強調した結果、後日研修部門には次のような質問が相次いだそうです。

「部下が『やりたくない』と言う仕事は、どうすればいいのでしょうか?」

とうとう、今まで強制的に指示することで何とかなっていた部下や仕事まで、うまく回らなくなってしまいました。きつい言い方をすると「ぬるい会社が出来上がった」。

このままではいけない。
コーチング研修をもっと実践的なものに変えるか、あるいは、コーチングに変わるもっと効果的で部下とのコミュニケーションに役立つ技法を身につけさせないと、状況はどんどん悪化してしまう。

そのように話す研修部門のマネージャーに対して、私は「ちょっと待ってください」と言いました。

◆「何となく」を繰り返さないために

「仮に別のコミュニケーション技法が見つかったとしましょう。選択理論でも、ファシリテーションでもいいでしょう。でも。新しい方法論にただ飛びつくだけでは、また同じことを繰り返すだけなのではないでしょうか?」

コーチング研修のてこ入れというテーマは近年増えているようです。私自身も、上述の会社の他に、化学メーカーやシステムインテグレーター、運輸会社などから同様の依頼を受けました。業種はあまり関係ないようです。

依頼をされる研修担当者のトーンもさまざまです。

たとえば、コーチング研修を企画した前任者から仕事を引き継いだ、新任の担当者が「結構お金を使って研修をやったようですが、現場は相変わらず。あれって何だったんでしょうね」とおっしゃるパターン。成果が見えなかったコーチングに否定的な意見をお持ちのようです。

あるいは、「もっとやらなければいけないのに、予算不足で中途半端な研修で終わってしまいました」とおっしゃるパターン。もっと続ければきっと成果が出るとお考えのようです。

たまにお目にかかるのが「何も変わらなかった。だからウチの連中はダメなんだよね」とおっしゃるパターン。正直こういう方はちょっと苦手です。

今までのやり方ではダメだから、今巷で流行っている、最新の手法を取り入れてみよう(中身はよくわからないけど)というのは、いかがなものか。

何となく部下育成が必要、何となく研修が必要、というのでは、コーチングであろうがなかろうが、きっと同じパターンを繰り返してしまうでしょう。

だからといって、元の「四の五の言わずにやれ」と強制的に仕事をやらせていた環境に戻せばいいかというと、そうではないと考えます。コーチング的な関わり方と、強制的な関わり方。どちらが正解というものではありません。どちらも、コミュニケーションの手段の1つにしか過ぎない。

すると、考えなければいけないのは次の2つです。
コミュニケーションをキャッチボールにたとえると、

1. ボールの投げ方(伝える手段)を、状況に応じて使い分けているか?

2. そもそも、投げるボール(伝える中身)を間違えていないだろうか?

私がこのような依頼をいただいた時は、この2つの視点から課題を整理していくことが多いです。
詳しくは、また別のトピックでお伝えします。


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